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オートファジーの仕組みの解明 ー大隅 良典

研究概要

オートファジーの歴史は、半世紀以上前に遡ります。1963年、ベルギーの生化学者のクリスチャン・ド・デューブ博士は、細胞が自身の細胞質成分の一部を膜で包み、消化酵素を含む小器官の「リソソーム」に運んで巾着状の小胞を形成し(オートファゴソーム)、分解する現象を観察し、オートファジーと名付けました。

オートファジー(autophagy)という言葉は、ギリシャ語で「自分」を意味する"auto-"と「食べる」を意味する"phagein"に由来します。しかし、生化学的解析などの技術的問題点から、メカニズムなどは分からないまま、研究は何十年もの間、進展を見せませんでした。

1988年、大隈は、まだ「誰もやっていなかった」酵母の液胞内の分解酵素のメカニズムの解明を研究テーマに選びました(※1)。液胞とは、生物の細胞小器官(オルガネラ)の一種で、液胞膜と呼ばれる膜に包まれた構造をしており、その中は細胞液で満たされています。植物では全体の約90%をも占めるにも関わらず、1980年代当時、液胞は「不活性な細胞小器官で、細胞内にあるゴミ溜め」程度としか思われていなかったのです。

1992年、大隈は、酵母を用い、オートファジーの全容を光学顕微鏡(肉眼)で初めて観察し、電子顕微鏡でその過程を解明しました。大隈は、これまで脇役だった「液胞」に着目することで、オートファジー研究の扉を開いたのです。翌年から、大隈は、オートファジーに関わる遺伝子の特定に取り掛かり、14の主要な遺伝子を発見しました。

こうして、酵母の細胞遺伝子学的な研究で、世界で初めてオートファジー(自食作用:細胞内におけるリサイクリング機能)の分子レベルでのメカニズムの解明に成功しました。高等動植物細胞を用いたオートファジー研究の進展により、神経変性疾患、癌、加齢に伴う病気などを治療する医療への応用が期待されています(※2)。この業績によって、大隈は、2016年に、ノーベル生理学・医学賞を単独受賞しました。

大隈は、「今は研究が『すぐに役に立つか』という基準で語られることが多い。社会や若い人もそうですね。オートファジーがきちんと解明されるまでには、あと50年はかかるかもしれません。でも私自身はもう研究をやめていいなという気にはなりません」と語っています(※3)。

※1 大隅良典. “顕微鏡観察がすべての出発点~あらゆる生物に備わる生存戦略「オートファジー」と出会って~”. 東京工業大学. https://www.titech.ac.jp/research/stories/ohsumi.html

※2 東工大ニュース. “大隈良典 略歴・研究成果”. 東京工業大学. https://www.titech.ac.jp/news/pdf/news_12628_osumi_research_summary_ja.pdf

※3 広報誌『Tech Tech-テクテク-』. “オートファジー 命をつなぐ細胞内のリサイクル機能”. 東京工業大学. https://www.titech.ac.jp/news/2016/036467.html

研究者プロフィール

大隅 良典 Yoshinori OHSUMI (1945ー)
生物学
ノーベル生理学・医学賞受賞の本学教授

1967年 東京大学教養学部基礎科学科卒業
1972年 同大学院理学系研究科相関理化学専門課程博士課程
単位取得満期退学
1974年 理学博士取得、ロックフェラー大学研究員
1977年 東京大学理学部植物学教室助手
1986年 同講師
1988年 同大学教養学部助教授
1996年 岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所教授
2004年 自然科学研究機構基礎生物学研究所教授
2009年 東京工業大学統合研究院フロンティア研究機構特任教授
2014年 同大学栄誉教授
同大学科学技術創成研究院細胞制御工学研究センター長/特任教授


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