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「電気を通すプラスチック」の発見 ー白川 英樹

研究概要

白川は、東京工業大学時代、神原周教授らに学びました。研究室では、助手の旗野昌弘らが1960年代初期からポリアセチレンの研究をしていました。当時のことを、白川はこう記しています。

「神原・旗野グループは、多くの困難を克服しながら電気的・磁気的性質の研究を行い、世界に先駆けてポリアセチレンが典型的な半導体、すなわち有機高分子半導体であることを明らかにした。ただ、粉末を試料とする限り、諸物性の測定には限界があった」

(白川英樹「現代の錬金術-電気を通すプラスチック」ILLUME Vol.2, No.2 第4号, 1990, 東京電力エネルギー未来開発センター発行)

1967年、研究生がポリアセチレンの合成を経験してみたいと申し出てきたので、白川は、実験の方法などを教えたところ、暫くして、実験を失敗したとの報告を受けました。このとき、白川は重要なことを見逃しませんでした。

「反応容器の中を注意して見ると触媒溶液の表面は、液体の表面というより何か黒い膜が張り詰めたようであり」、この物質を「いろいろと調べてみると、それは薄膜状のポリアセチレンそのものであることがわかった。不溶・不融のため粉末からはまず不可能と思われていた薄膜が、偶然の失敗でできてしまったのである」(同上)。

この薄膜は、ボロ布同様でしたが、重合方法の改良を重ね、アルミ箔と見間違える程見事な面積の大きい均一な厚みの薄膜を作れるようになりました。これが有名な「白川法」です。

白川は、まさに大発見の入口に立っていましたが、化学的ドーピング(異物の添加)によってポリアセチレンの絶縁体が金属同様のものに変わったとの確証を得ないまま約7年間が過ぎることになります。

確証への道を拓いたのは、アメリカのマクダイアミッド(A.G. MacDiamid)とヒーガー(A. J. Heeger)でした。マクダイアミッド教授は、1976年から1年間、白川をペンシルバニア大学に招き、固体物理学者のヒーガー教授と3人で、ポリアセチレンの電気的性質を共同で研究しました。ここで、臭素、ヨウ素など異物(ドーパント)を加えることにより、プラスチックは金属のように電気を通す物質に変化することが立証されたのです。

導電性高分子はコンデンサー、除電材や二次電池などに利用されていますが、有機発光素子、有機トランジスタ、有機太陽電池等への応用が進められ、大きな可能性を持っています。この業績に対し、ノーベル財団は、2000年に、白川英樹ら3人にノーベル化学賞を与えました。

研究者プロフィール

白川 英樹 Hideki SHIRAKAWA (1936ー)
高分子化学
本学出身者初のノーベル化学賞受賞

1961年 東京工業大学理工学部化学工学課程卒業
1963年 同大学院理工学研究科修士課程化学工学専攻修了
1966年 同大学院理工学研究科博士課程化学工学専攻修了(工学博士)
1966年 東京工業大学資源化学研究所助手
1976年 米ペンシルバニア大学博士研究員
1979年 筑波大学助教授
1982年 同教授
2000年 同名誉教授

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