高安定水晶振動子の実現 古賀逸策
板状の水晶に交流の電圧を加えると、水晶板の大きさに応じた、ある固有の周 波数で電気信号が強調される。この性質を利用した〈水晶振動子〉という小さな 部品は、私達の身の回りにある、通信機器や時計などの電子機器に用いられている。 古賀逸策は、この水晶振動子の高精度化と実用化を飛躍的に進めた。この水晶の性質は 1922年ケイディーによって発見され、翌1923年にはピアースが真空管と組み合わせ、無線通信に利用する発信回路を開発する。1929年、東京工業大学(東京科学大学の前身)助教授となった古賀は、その将来性に着目し、水晶の研究に取り組みはじめる。
当時の水晶板はXカット、Yカットという、水晶の結晶軸に沿った切り出し方をしていた。しかし、これら水晶板は電気信号が強調される周波数が、周囲の温度変化に応じて大きく変わり、実際に利用するには使い勝手が悪かった。古賀は、水晶板の切り出し方に着目し、温度変化があっても周波数の変化が小さい切り出し角度を、多数の切り出し実験と計測を重ねて追い求める。そして、1932年に温度変化による影響を従来の100分の1に抑えることができた切り出し方 <R1 カット, R2 カット>を発見し、高安定な水晶振動子を実現した。〈古賀カット〉とも呼ば れるこの水晶振動子の実現により、無線通信の品質は大幅に向上。同時に、日本標準時刻装置などの時計開発へと発展する。
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